2016年02月23日

牙をむいたライオン

この記事は特定の人物や団体を批判するために書いているわけではありません。あくまで
一特殊経験者の偏見に基づいて再構成したものです。あえて時系列を入れ替えたり複数の
エピソードをまとめたり、他人のプライバシーを晒さないように注意して書いています。
似たような経験を違う雑誌ですることもあります。そういうものとしてお読み下さい。
また自伝でもありません。私が直接経験していない聞き書き(噂ではない)も含みます。

ある雑誌で長年貢献した、当時まだ固定ファンのいた作家が編集部に呼び出され、段ボール
に入れたその人の原稿を渡されて「これ持ってどこでも行って下さい」と言われました。
原稿を返すというのは、会社によってやり方の違いはありますが、もう掲載しないという
意味になります。単行本や再録、配信の予定があれば返しません。ただし単に原稿を返さ
ない会社もあります。返す原稿と返さない原稿がある場合は、返さない原稿はまだ使いたい
ということです。私の経験ではそうです。返してくれと言えば返してもらえますが、波風
を立てないように気を使います。悪くすれば、そこではもう仕事しませんという絶縁宣言
と受け取られてしまいます。
段ボールに原稿を詰めて呼び出して追い帰す、というのは、二度と使わないという意味
なります。そこまでしないと、また企画書を送ってくると思ったのかもしれません。
それにしてもやられた方はたまりません。漫画の出版社ではそういうこともあります。
急に呼び出して段ボールを渡して追い帰す、というのは、リーマン・ブラザーズが破綻した時
社員にした仕打ち
です。私物は全部箱に入っていて、もう会社に入れないようにされました。
そうでもしないと情報持ち出しなどの報復をされかねないからでした。
そんなことは日本の企業はしないと聞きましたが、漫画家はされます。
リーマン・ブラザーズは倒産しましたが、出版社は違います。漫画家の切り方だけが米国並
ということを、知っておいた方が楽だと思います。酷いことを言われたりされたりしても、
そういう話はいくらでも前例があると思って、軽く受け流すのが一番です。それでもその後
段ボールを渡された人は描いています。そう簡単にやめる人はいません。どんなことをしても
とことん粘るのが当たり前です。優しそうな話を描く人も、牙をむいたライオンです。

私が病気した頃、休刊が続いて雑誌が減っていましたが、一方で中堅やマイナーでホラーや
お笑い漫画ブームが続いていました。ホラー、恐怖、怖い、ミステリーと題した雑誌の中で、
占い漫画ではない大人向けの心理サスペンスを描ける雑誌を見つけました。読んで面白いと
思う雑誌、が基準です。私は原稿料が上がっていたものの、ページ2万貰う人もいる大手では
安い方でしたから、あまり差がなく、大手の方が安いところもありました。読者年齢がやや
上がり、例えば30歳のOL(当時の言葉)、40代の主婦、という注文はありましたが、それまで
では比較的描きたいものを思うように描けるようになり、量産できませんが続けられました。
しかし、病気で大手に切られたわけではありません。そこは誤解されると人聞きが悪いので
断っておきますが、復帰後もまた大手で描いていましたし、仕事が重なってお断りすること
もありましたが、わざわざ予定を変えて描かせていただこともあります。ただ私自身が自分
の軸足をもともと描きたかったラブコメではないサスペンスに移したということです。
その後は自伝でないので省きます。出版不況はますます厳しくなり、コンビニに並ぶ漫画も
激減しました。すでに生活できるだけの蓄えのある人は無理しませんが、若い人は大変です。
これから漫画を描く人は、大きな社会の動きにも注意して、先を見て考えて現実的に計画を
立てて、少しずつでも自分の描きたいものを描いていってほしいと思っています。

これまでの「漫画けもの道」はHPに一覧にしています。
http://www.shinobumakimura.org/blog/

posted by 183 at 12:13| 漫画けもの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする